2012年5月17日木曜日

アメリカアリゲーター


アメリカ合衆国が世界に誇る宇宙技術を支えているのは言わずと知れたNASA(アメリ カ航空宇宙局)ですが、その本拠地であるケネディ宇宙センターがあるフロリダ州には世界最先端の研究施設とともに、野生のワニが数多く生息しています。そ の中でも世界に2種類しかいな いアリゲーターの仲間であるのがこのアメリカアリゲーター(別名ミシシッピーワニ)です

アメリカにはもう一種類アメリカワ ニという、こちらはク ロコダイルと呼ばれる種類のワニが住んでいますが、アメリカワニはアメリカ合衆国以外にも中南米や カリブ海の島々にも見られるのに対し、アメリカアリゲーターはアメリカ合衆国だ けに生息しています。アメリカ国内でも彼らが住んでいるのは主に東南部地域 で、東海岸に面するヴァージニアからノースカロライナからフロリダを経てテキサス、オクラホマといったアメリカ大陸南部の州に見られます。

アメリカアリゲーターは非常に大きくなるワニの一つで、これまで報告された中で最も大きいものは全長5.8mもあったといわれています(不確かな情報な が ら6mを超 えたものもいたという話も)。しかし近年ではこれほど大きくなる個体は見られなくなっており、彼らの平均的な大きさは全長3〜4.4m体重は 227〜454kgぐらいであるということです。(それにしてもかつてヨーロッパからアメリカ大陸に渡ってきた人々は、まさ かこんな怪物が棲んでいるとは思 いもしなかったでしょうねぇ。当時の人々の驚きはどんな感じだったんでしょうか?)

アメリカアリゲーターの背中には鱗 甲と呼ばれる板状の骨で守られており、ちょっとやそっとの攻撃では効かなくなっています。また彼らの体の半分は非常に大きなしっぽから なり、水中ではこれを左右に振って泳ぐことができます。また足の指の間には水かきも付いており、水中生活に適応した体をしています。


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彼らは主に池 や湖、川など水の多いところに生息しています。ごく短い時間であれば海水など塩分の高い所でも過ごすことが出来るようですが、イリエワニほど海辺 での生活には適応してはいません。また変温動物である彼らは気温が低くなると動きが鈍くなってしまいますが、そういう時は土手の近くなどに穴を掘り、 その中でじっとして過ごします。この穴の大きさは最大で20mにもなるそうです。逆に乾期になると小さな水辺は干上がってしまいますが、こ の時そこに棲んでいたアリゲーター達は別の水辺を求めてトコトコ歩いて移動します。

また彼らは口と爪を使って泥や植物を掘り起こし、「ワニの穴」と呼ばれる穴を掘 ります。このワニの穴には雨の 降らないときにも水がたまり、ここで彼らは泥浴びなどをして乾燥から身を守ります。この穴はワニの成長とともに何年もかけて大きく広げられ ますが、彼ら自身以外の動物たちにもこのワニの穴は重要で、魚や昆虫、軟体動物やヘビやカメなどその 他のハ虫類や鳥などがこの中にある水を使って生活しています。従ってアメリカの湿地帯の生態系の中で、アメリカアリゲーターはワニの穴を 使って、とても重要な役割を果たしているといえます。

アメリカアリゲーターのオスは縄張りをもち、その中への他のオスの侵入を拒みます。縄張りの大きさは5平方キロメートルにもなり、オスはその中で生活を行 いますが、一方アメリカアリゲーターのメスは行動範囲はそれほど大きくなく、限られた地域の中で過ごします。

彼らはもちろん肉食動物なのですが、はっきりいって動くものなら何でも食べるといえるぐらいあらゆる動物を食べ、成長するにつ れてその内容は変化します。めちゃくちゃ強いアメリカアリゲーターといっても、最初生まれたばかりの子供の頃は体も小さく大きな獲物を取ることはできませ ん。そのためこの頃は昆虫やそ の幼虫、巻き貝、クモといった小さな無脊椎動物がその食べ物の大部分を占め、その他に小魚を食べる程度です。


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しかし、彼らの体は成長とともに急激に大きくなり、食べる獲物も大型の魚やカエル、ネズミか らヘビやカメ、鳥やアライグマといった感じでだんだん大きく なっていきます。そして最終的に最大級のアメリカアリゲーターになると野 ブタやシカ、ヒツジ、果てはウシまで襲うようになります。これだけでも驚きなので すが、過去にはなんとヒューマ やクマなど陸生の大型肉食ホ乳類が彼らに殺された記録もあるそうです。(もうこうなると誰も彼らに手出し出来ないといった感じです ねぇ…。)また大 型のアメリカアリゲーターは小型の仲間をも襲って食べるようになるということです。しかしその食欲の強さは時として彼らにとって不利に働く こともあります。というのも彼らはアルミ缶や釣りのルアーなども食べてしまうため、人間の捨てたゴミが彼らの健康に影響を及ぼすのではないかと心配されて います。

彼らは頭の上側に鼻の穴(鼻 孔)と目が付いているため、体のほとんどを水の中に沈めたまま、呼吸をし、獲物を探すことができます。そして水中や水辺に水を飲みにきた動 物の所にひっそりと近づき、一気にその大きな口で噛みつきます。また陸上では動きが鈍いイメージのある彼らですが、かなりの速さで歩くこともでき、獲物を 取るときには短い距離であれば突進することもできるそうです。そして小型の獲物はそのまま丸のみにしてしまいます。逆に獲物が大きい時は水の中に引きずり 込んで溺れじにさせます。そして獲物の体を食いちぎって食べるのですが、時には水の中にしばらく置き去りにして、獲物の体が腐って分解しやすくなってから 食べることもあります。また彼らは石を胃の中にため、それを使って食べ物をすりつぶし、効果的に消化するために役立てています。


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毎年春になるとアメリカアリゲーター達は繁殖期に入ります。この時期になるとオスのアリゲーターはうなり声を出して、メスに自分の存在をアピールするよう になります。本来彼らには声帯が付いていないので、我々のような方法で声を出すことはできないのですが、直接肺に空気を吸いこむ時にこのうなり声を出して いると言われており、求愛の時以外にも他のオスが自分のなわばりに入ってきたときに、警告としてうなり声を上げることもあります。また彼らは人間が聞くこ とのできないぐらい低い音を出すこともでき、このときは水面に泡や波紋がたちます。この他に体をこすり合わせたり、互いの体を押しあったりすることで求愛 行動が行われ、またオスはメスに向かって自分の喉を見せつけたりします。

こうしてお互いを気にいると交尾が行われますが、オスは自分のなわばりの中にいるすべてのメスと交尾を行うことが出来、多い時には10匹以上のメスを1匹のオスが独占することもありま す。

交尾後メスは6〜7月頃、水辺 に植物の枝や葉っぱ、泥から出来た巣を作り、そこに20〜50個の 白い卵を産み落とします。そして彼女はさらにその上に植物を乗せて覆い をするのですが、時間がたつとこの覆いの植物が腐り、その時に発せられる熱で卵が温められます。この時の温度が彼らにとってはとても重要 で、なんとそれに よって産まれてくる子供の性別が決定されます。 つまり温度が27.7〜30℃の時はメスのワニが、32.2〜33.8℃の時にはオスのワニが産まれ、その 中間の時にはオスとメス両方の子供が混じり合って産まれてきます。

卵が産み落とされてから65日ぐらいで、中の子ワニはふ化の準備が完了します。しかし卵の上には覆いがかけられているため、自力ではふ化することができま せん。そこで子ワニは卵の中で鳴き声を上げます。卵を産んでからずっと巣のそばに付き 添っていた母親は、この声を聞 くと急いで巣を掘り起こし、卵がかえる のを手助けし、卵からかえった子供を口にくわえて水辺まで運びます。産まれてくる子供は体が小さい(15〜20cmぐらい)ことを除けば、 すでに立派なワニの形をしており、体全体に親にはない黄色い縞が走っているのが特徴 となっ ています。


さすがワニといった感じで、子ワニは生まれるとすぐに水の中に入りますが、この頃は体が小さく外敵に襲われる危険性が極めて高くなっています。そこで子供 同士で群れを作り、最初の5か月ぐらいは母親とともに生活して、その後一人立ちしていきます。しかしそれでも子ワニの敵はとても多く、鳥やアライグマ、カ ワウソ、ヘビの他、ブラックバスや大人のアメリカアリゲーターに襲われ、80%ものアメリカアリゲーターが子供の頃に死んでしまします

若いアメリカアリゲーターの成長の速度はとても早く一年で30cm以上も大きくなり、8〜13歳頃までに全長 1.8〜2.1mぐらいになると完全に大人になり繁殖も行うようになります。その後は次第に成長の速度は遅くなりますが、ハ 虫類である彼らは生涯を通じて 大きくなり続けます。野生のア メリカアリゲーターは35〜50年程度生きるといわれ、飼育 下のものであれば最大73年も生きた記録があるそ うです。


アメリカアリゲーターの絶望と復活
アメリカアリゲーターの棲むアメリカ南東部の湿地帯は周辺に住む人が数かなり多く、しばしば住民が彼らに襲われてしまう傷ま しい事故が起こってしまいます。しかしその数は一般に考えられているよりずっと少なく、1970年代〜90年代の30年ほどの間 にアメリカアリゲーターに襲われて死亡した人の数は9件だけで あるということです。しかし2006 年5月には4日間の間にジョギング中の女性やシュノーケリングをしていた人など3人が別の場所でアメリカアリゲーターによって殺さてしまった事 例も報告されています。また人間だけでなくペットであるイヌやネコも襲われることがよくあります。

アメリカアリゲーターに襲われたとき、最も恐ろしい彼らの武器はその強靭な尻尾で、大型のワニはこれを打ち付けることで簡単に我々の骨を折ること ができます。また彼らの口の中には数多くの細菌が棲んでいるため、彼らに噛まれるとたとえそこを逃げ出すことが出来ても、その後感染症で深 刻な事態に陥る危険性があります。普段の彼らは人間を食べることはほとんどないので、積極的に襲ってくることはあまりないのですが、子育て中の母親などは 近づいてくるものなら何でも攻撃をしかけてきます。従って子育ての時期に彼らの棲んでいる水辺に近づく際には特に注意が必要となります(ていうかワニのい る川や湖には絶対近づきたくないですが…)。またアメリカアリゲーターがいる所には「ワニ注意!」の標識 が数多くたてられています。

しかし本当に相手のことを恐れているのは、我々でなく彼らの方なのかもしれません。というのもかつてアメリカアリゲーターはそのを目当てに、大規模で商業的 な狩りが行われていました。こ れにより野生における彼らの数は大幅に減少し、1970年代には絶滅は避けられないものとまで言われていました。しかしこれに対し1967 年からアメリカ政府は法律を制定して、彼らを保護する政策を打ち出しました。(今のように絶滅動物に対する保護活動はこの時代にはまだほとんど行われてお らず、アメリカアリゲーターの保護はそれらに先駆けていち早く実行に移されました。)


その後野生におけるアメリカア リゲーターの商業的な狩りは全面的に禁止され、一方でワニを飼育する牧場を作り、商業用の皮はそこから生産することで次第に彼らの生息数は回復していきま した。こうして各州における生息数管理の結果、自然界における彼らの数は十分に回復したことが明らかになり、めでたく1987年には絶滅危ぐ種のリストから外 されることになりました。そして再び彼らが絶滅の危機にさらされないよう、現在でもその生息状況は詳しい調査が続けられ、不法な皮製品の取 引がないように厳重な管理がなされています。



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