要約
半導体デバイスの故障解析では、故障箇所を素早く的確に特定し故障原因を解析することが要求されます。しかし、半導体デバイスの微細化、多層配線化が進み、故障箇所が特定できない事が多くなっています。この問題を解決する手段として、弊社では走査電子顕微鏡 (SEM) にメカニカルプローブを搭載した 「ビームトレーサ」() を開発しました。ビームトレーサは、二次電子像観察下でデバイス微細領域へのブロービングを実現し、電気特性、吸収電流、電位分布などを測定して故障箇所の特定を行う故障解析装置です。本稿では、ビームトレーサの機能を用いた故障解析技術について報告します。
Abstract
Failure analysis of semiconductor devices finds an accurate fault site quickly and to analyze the fail cause. However, the smaller semiconductor devices become, the more becomes difficult to detect fault sites. We have developed Beam Tracer (JFAS -7000 BT) which allows a mechanical probing on a SEM to solve this problem. It enables precise probing in nano-meters and a failure analysis using the electric characteristics measurement, absorded current method, voltage distribution contrast method.
キーワード: SEM、ビームトレーサ、プローブ、吸収電流法、電位分布法、不良解析
Keywords: SEM、Beam Tracer, probe,absorbed current, voltage distribution contrast,failure analysis
1. まえがき
ビームトレーサ (:図1) は走査電子顕微鏡にメカニカルプローブを搭載した装置です。走査電子顕微鏡の分解能を生かし、他の装置で事前プロービング処理などすることなく、微小領域 (<100nm) へのプロービングを可能にしました。また、空間分解能の限界からエミッション顕微鏡や IR-OBIRCH などの従来装置では不可能であった不良箇所の特定を可能にしています。
ビームトレーサの故障解析手段は、主に下記 3 点です。
- 吸収電流法
- 電位分布法
- 電気特性測定
今回我々は、吸収電流法及び電位分布法を中心にビームトレーサの故障解析技術について報告をします。
2. 特徴
ビームトレーサの故障解析機能を図 2 に示します。図に示す通り、メカニカルプローブを搭載することで、多岐にわたる故障解析が可能となっています。
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3. 吸収電流法及び電位分布法の原理
3.1 吸収電流法の原理
図 3 に吸収電流発生の原理を示します。試料に照射された一次電子は、背面散乱電子として試料から脱出する電子と試料内部に侵入する電子に分けられます。一方試料からは、二次電子、オージェ電子等が放出されます。試料に侵入する電流 Iin と二次電子、オージェ電子として放出される電流 Iout に差が生じると、この差を相殺するため、I=Iin-Iout の吸収電流が発生します。この吸収電流を検出し、一次電子の走査に同期させて階調表示することによって吸収電流像が取得できます。ビームトレーサでは、吸収電流をメカニカルプローブによって検出することで、メカニカルプローブと導通のある経路を画像上で認識することが可能になっています。
3.2電位分布法の原理
図 4 に電位分布法の原理を示します。メカニカルプローブを 2 本配線にコンタクトさせ、一方は電圧アンプへ接続し、他方は接地します。A 点 B 点の組成が一様な場合、各点に於ける二次電子放出効率は一定となります。したがって、各点を一次電子が照射した場合、照射電流が一定であれば、放出される二次電子数は等しくなり、図 1 同様、A 点、B 点共に I=Iin-Iout の吸収電流が発生します。
これに伴い、図 4 の抵抗異常箇所では、オームの法則に従い、V=(Iin-Iout)*R1 の電圧降下が発生します。電圧アンプで検出される電圧降下を一次電子の走査に同期させて階調表示することによって、電位分布像を得ることができます。抵抗異常箇所を含む配線の場合、その箇所において大きな電圧降下が発生することから、抵抗異常箇所は大きな階調変化点として画像上で認識されます。
3.3 吸収電流法/電位分布法の特徴
3.3.1 多層配線への対応
半導体デバイスの配線工程は年々多層化が進んでいます。このような配線経路の抵抗不良を確実に検出するには、基板工程まで一次電子が到達する加速電圧が要求されます。しかし、二次電子像では、試料の深い部分で発生した二次電子が、試料から脱出できないため、拡散層を直接観察することは出来ません。他方、吸収電流法 / 電位分布法では、多層間の信号を独立に測定することができます。
図 5 に加速電圧を変えたときの吸収電流像の変化を示しました。この吸収電流像は写真に示した配線経路にあるパッドより取得しています。低加速時には上層に近い配線パターンのみ見えていますが、加速電圧を上げるにつれて下層の配線が見えてくることが判ります。また、加速電圧 25kV から Electron Beam Induced Current (EBIC) が検出されることから、この加速電圧に於いて、一次電子線が拡散層まで到達していることが確認できます。配線不良検出 (コンタクトプラブを含む) をターゲットとする吸収電流法では、EBIC 反応が起こる加速電圧を、全層観察の目安として故障解析をしています。
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3.3.2 空間分解能
吸収電流法 / 電位分布法は、高い空間分解能を得ることが出きる電子線と、デバイスの相互作用を検出する手法であるため、10nm 以下の空間分解能を得ることが可能です。本学会でも既に 65nm hp 世代の Cu/Low-k 微細配線高抵抗不良検出事例が報告されています。[1]
4. 各種不良モードと最適解析手法
4.1 吸収電流法及び電位分布法
吸収電流法及び電位分布法で検出できる不良は、配線系不良です。不良モードは、下記 4 項目が挙げられます。
- オープン不良
- 高抵抗不良
- 低抵抗不良
- ショート不良
4.1.1 オープン不良
オープン不良の場合 (図 6)、オープン箇所から先の配線経路に流れる吸収電流は、アンプ側の配線から供給されないため吸収電流アンプに接続したプローブには極めて少ない電流しか流れないため、オープン箇所を境として明暗の違いとなって現れます。したがって、プローブ 1 本で検出する吸収電流像が、オープン不良を特定する最適手法です (図 7)。
4.1.2 高抵抗不良
高抵抗不良の場合 (図 8)、プローブ 1 本では不良箇所を特定することは不可能です。配線は直列回路である為、高抵抗であっても電流はプローブにより検出されてしまうからです。この場合、不良箇所の前後に 2 本のプローブを接続し、不良箇所の特定を行ないます。1 本は吸収電流アンプに接続し、他方は接地します。これにより、配線を流れる吸収電流はアンプ側、GND 側の 2 方向に分流されます。[2] この際、特に高抵抗箇所を境とし吸収電流アンプで検出される吸収電流量が変化する為、高抵抗箇所を境として明暗の階調差が生じます。吸収電流を用いた高抵抗不良の限界値として 105 オームが報告されています。[3]
4.1.3 低抵抗不良
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低抵抗不良の場合 (図 9)、電位分布法 (VDIC:Voltage DIstribution Contrast) を用いることで不良箇所を検出することが可能です。配置は、高抵抗不良と同様にプローブを 2 本用います。そして、吸収電流アンプの替わりに電圧アンプを用いることで電位変化を検出します。電位勾配に対応した画像階調の変化から、複数の故障箇所を一度に検出することも可能です。
図 10 に、電位分布法を用いた TEG (チェーンパターン) 観察例を示します。良品ではありますがそれぞれ 75Ω,130Ω、680Ω の総抵抗の TEG (チェーンパターン) を観察することが十分可能であることが判ります。また、75Ω の抵抗間も階調差が明瞭であり、さらに低抵抗不良箇所の識別が出来るものと思われます。
4.1.4 ショート不良
実デバイスのショート不良検出は吸収電流法を用いて行います。ショートを含む配線不良の場合、対象ネットにプロービングし吸収電流像を観察する時、他ネットが現れます。この場合、対象ネットと他ネットの近接点を解析することで、ショート原因を特定することが可能です。(図 11)
TEG (チェーンパターン) の場合 (図 12)、対象ネットと他ネットがショートしていると、対象パターンと他パターンのすべて明コントラスト (吸収電流法 )や明暗グラデーション (電位分布法) として観察されます。その中から、ショート箇所を探す場合、小規模なチェーンパターンであれば可能ですが、大規模なチェーンパターンでは、ショート箇所を見つけるのは困難です。チェーンパターンの、ショート箇所特定は今後の課題です。
4.2 EBIC
ビームトレーサでは、吸収電流アンプ、電圧アンプを用いて、EBIC 像及び内部起電力像を得ることができます。吸収電流法及び電位分布法は、主に配線系不良箇所の特定に用いますが、配線系に不良箇所が無い場合、更にデバイスの下層、すなわちトランジスタを含む拡散層領域の解析が必要となります。この場合、EBIC が有効な解析手法となります。図 13 に EBIC による拡散層の観察事例を示しました (写真は二次電子像と EBIC 像の合成像です)。写真左は、デバイス平面方向の EBIC 像です。EBIC 像平面観察は、比較的広範囲に及ぶ拡散層の拡がりの中から、不良箇所を特定することが可能です。写真右は断面方向の EBIC 像です。EBIC 像断面観察は、局所的に拡散層の状態を確認することに有効な手法です。
4.3 電気特性測定
ビームトレーサは、微細領域 (<100nm) へのプロービングを実現したため、微細なコンタクトプラグや、ビアプラグ、配線を表面に露出させた状態で、直接プロービングしてコンタクトできます。これによって、デバイス微細領域の電気特性を測定し、不良箇所を絞り込むことが可能になります。図 14 に、65nm hp プロセスの MPU SRAM 部へプロービングし、VD-ID 特性を取得した例を示しました。
5. ビームトレーサの解析手順
5.1 吸収電流法/電位分布法による解析流れ
吸収電流像 / 電位分布法を用いた効率の良い不良解析方法を図 15 に記します。吸収電流像を取得する際、プロービングをするための配線やパッドが必要となります。特に、実デバイスではパッド作成が重要です。パッド作成の際には、パッド間 (配線間、プラグ間) の抵抗値を測定するために重要な解析候補箇所の前後にパッド (2 つ以上) を作成することが望ましいです。抵抗値を知ることで、現れる吸収電流像を推測することが出来きます。その後、プローブ (1〜4 本) を用いて吸収電流像、電位分布像を取得します。原理上、プローブ 2 本で測定できるが、プローブ 3〜4 本目が必要になることがあります。それは、何らかの原因によりデバイスの電源ラインや GND ラインと対象ネットがショートしてしまった場合、電源ライン、GND ラインにもプロービングする必要性が生じるからです。
また、複数の不良があった場合、90°毎に配置されたプローブから観察に適した針を選ぶことで試料を大気中に出すことなく、複数の不良点を観察することが可能になります。
5.2 EBIC及び電気特性測定
吸収電流法及び電位分布法で、不良箇所の絞り込みが出来なかった場合、配線層を剥離して、デバイスのレイヤー解析を進めます。EBIC 及び電気特性測定の機能を生かし、デバイスの最下層に位置する、拡散層の異常を絞り込み、トランジスタ単位あるいは、Via 単位で不良個所を絞り込みます。
図 16 にビームトレーサを用いた解析の流れを示しました。エミッション顕微鏡や OBIRCH で絞り込みが不可能な不良に対し、吸収電流法 / 電位分布法で配線系異常箇所を絞り込み、更に配線系に異常箇所が無い場合は、EBIC/ 電気特性測定を行い、不良個所の特定を行ないます。
6.まとめ
ビームトレーサの故障解析技術を吸収電流法及び電位分布法を中心に、原理と応用例を示し、本法を用いた故障解析技術を確立しました。また、EBIC / 電気特性測定機能を用いることによって、デバイスの最上層から最下層まで解析する手法を示しました。
課題を挙げると次のようになります。
- ショート不良箇所特定 (特に、チェーンパターン)
- 低抵抗不良 (100Ω 以下の異常箇所検出)
今後は、上記課題項目の検討をして行きます。
参考文献
[1] 水島、木村、佐藤、中村 "電子ビーム吸収電流像を用いた Cu/Low-k 配線の不良解析" 、LSIテスティングシンポジウム 2005 議事録、pp279-284
[2] C. A. Smith, C. R. Bagnell, F. A. DiBianca, E. I. Cole, D. G. Johnson, W. V. Oxford, R. H. Propst, "Resistive Contrast Imaging: A New SEM Mode for Failure Analysis" IEEE Transaction on Electron Devices. ED-33, No.2. 1986, pp. 282-285.
[3] 今永、長峰、栗原、留目 "電子ビーム吸収電流法による 65nm デバイスの配線不良解析"、LSI テスティングシンポジウム 2005 議事録、pp285-289
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